平成20年10月27日 しんぶん赤旗朝刊


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ゆうPRESS
正社員も過酷だ 過労→うつ病「たたかうしかない」
1ヶ月間の残業340時間 公共事業コンサルタント会社元社員 淺野 哲さん(31)
労災申請を妨害→突然「解雇予告通知書」→理由は「懲戒」

 使い捨てされた若い技術労働者の残酷物語です。
 河川、ダムなどの公共事業のコンサルタント会社最大手「建設技術研究所」(本社・東京都中央区、大島一哉代表取締役社長)の元社員、淺野哲さん(31)=仮名=は、年間約4000時間も働かされてうつ病になりました。
 いま、会社を相手に「長時間労働は違法だ」と裁判をたたかっています。(菅野尚夫)

   現代版『蟹工船』
 「まるで現代版『蟹工船』です」。淺野さんは、過酷な労働実態をそう振り返ります。

 淺野さんは、国立大学の大学院工学研究科(土木工学専攻)を卒業後、2001年4月に同社に入社。
 大阪支社で、主に国土交通省や自治体が発注する「河川整備計画策定業務」の氾濫(はんらん)シミュレーションや資料作成を行ってきました。
 「小学生のころからなりたかった土木技術者、必死につかんだ夢」でした。

 訴状や淺野さんの陳述によると、人材不足と厳しいノルマ追求のなか、「廃人になる一歩手前のボロボロになるまで働かされた」といいます。
 徹夜で残業させられて、始発電車で帰ることが日常茶飯事でした。「2―3日に数時間程度しか睡眠時間がとれない」状況でした。

 週に何度も発注者の国などから呼び出されました。 資料を作成させられ深夜帰宅、土・日出勤が慢性化していました。
 厳しい経費削減で、残業代のほとんどが未払い。業務に不可欠なパソコンなどは、性能が悪く、機材を自費で購入。 深夜帰宅のタクシー代が自費のこともありました。

   虚偽申請を強要
 2週間連続出社した時は、1日休暇を取ったように虚偽の申請をするように会社から指示されました。

 02年12月ごろから体調に異変を感じるようになりました。出勤しようとすると嘔吐(おうと)するようになったのです。
 「激しい嘔吐がつづき、強いけん怠感を振りはらって出社した」と語る淺野さん。

 02年1年間の労働時間は、3869時間にも及び、1カ月間の残業が340時間のときもありました。
 03年2月以降、体調はすぐれず、休職と復職を繰り返し、同年12月には「抑うつ状態」と診断されました。

 淺野さんが労災申請をしようとすると、会社は「申請したら会社に居られなくなる」などと妨害しました。
 05年12月には、「解雇予告通知書」を送りつけてきました。

 解雇後に受け取った離職票の離職理由には、事実上の懲戒解雇にあたる「重責解雇」と記載されてありました。
 会社へ話し合いを求めましたが拒否されました。悩んだ結果「たたかうほかに道はない」と決意しました。

 07年3月、「うつ病を発症させたことは労働契約上の安全配慮義務違反だ」と、研究所を相手どって損害賠償訴訟を大阪地裁におこしました。

 淺野さんはいいます。

 「私たちの世代は、ワーキングプアか過労死するほど働かされる正社員かの二極化にさらされています。
 建設業界から過労死する犠牲者を広げないためにも、社会問題として考えてほしくて裁判に訴えました」

   長時間労働自体の違法性を問う ― 原告代理人 岩城穣弁護士 ―
 この裁判は、「心身の健康を損なう長時間労働をさせることは、使用者の労働者に対する安全配慮義務違反である」として、損害賠償を請求した訴訟です。
 長時間労働自体の違法性を正面から問う裁判は、初めてです。

 原告の主張が認められれば、長時間労働自体が違法とみなされ、過労死や過労自殺、過労によるうつ病発症の防止に寄与するものです。
 被告企業の建設技術研究所は、全面的に争う姿勢です。

 被告は、長時間労働の実態を軽くみせるために、「労働時間」と「在社時間」を区別して、「在社時間」は「拘束時間でない」などと主張しています。
 好き好んで会社に居残ってただ働きする労働者はいません。
 長時間残業しないと終わらない過密労働があって、「在社」せざるを得ないのが実態です。

 社会問題になっている長時間過密労働の根絶のために世論を高めて勝訴させたいと思っています。

   株式会社「建設技術研究所」 取締役6人が天下り元官僚
 旧建設省所管の財団法人から分離独立、民営化によって1963年に創立されました。
 有価証券報告書によると、販売実績の42・5%が国の仕事。
 判明したものだけで6人の取締役が旧建設省出身の天下り元官僚です。

   コメントできない
 建設技術研究所広報室の話 係争中であり、当社の見解は裁判所に提出した答弁書の通りです。一切コメントできません。

 淺野さんのHP http://5982.biz

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-10-27/2008102705_01_0.html


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